<ポエム>ある朝の神話その5 朝顔と鈴虫

それはある晴れた朝のことでした。
大都会の一角にある小さな家の小さな箱庭に
ひっそりと朝顔が一輪咲きました。

朝顔はうすよごれた空を見上げ息苦しい感じを
もちました。
彼女は生きているのがいやになるような世の中だと
思っていました。

ところがそのときまだうすぐらいしののめに
すばらしい声が聞こえてくるではありませんか。
彼女は耳をすましてじっと聞き入りました。

「リェーン、リョーン、リェーン、リョーン」
見ると小さな箱庭で鳴いているものがありました。

「もしもし、あなたはどなたです?」
「僕ですか?僕は鈴虫というちっぽけな昆虫です。」
「あなたはいつもそうして一人鳴いているのですか?」
「そうです。僕はあたりが静かな夜から朝にかけて
鳴いているのです。」
「ひとりでさびしくないんですか?世の中が
いやになることはないんですか?」

朝顔はたずねました。
鈴虫は笑って答えました。
「いいえ、ちっともさびしくなんかありません。
ここは住みにくいのかもしれませんが、与えられた環境で
精一杯生きていくことが大切だと思っています。
この朝のすばらしさはなにものにもかえがたいですよね。」

感心した朝顔は反省し、朝のすがすがしい空気を
胸いっぱい吸い込みました。
そして一輪の花をさらに大きく咲かせました。

まだ湿った土の上で鈴虫は言いました。
「朝顔さん、あなたはとても美しいんだからもっと
自信をもって生きていきましょう。」

朝顔は小さくうなずきまたそっと空を見上げました。

それはある晴れた朝のほんの小さなできごとでした。

K.M

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